書評

「抗菌薬BOOK&MAP」を薬剤師が読むとどう刺さるか──βラクタムアレルギーまで踏み込む実務書のレビュー

2026-05-26

抗菌薬·感染制御·βラクタムアレルギー·病院薬剤師·書評

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「抗菌薬BOOK&MAP」を薬剤師が読むとどう刺さるか──βラクタムアレルギーまで踏み込む実務書のレビュー

抗菌薬BOOK&MAP(佐野邦明著/笠原敬監修、シーニュ)の書影

「抗菌薬の本は何冊か持っているけれど、患者さんの『ペニシリン アレルギー あり』と書かれたカルテを前にすると、いつも手が止まる」——そんな読者にこそ開いてほしいのが、救命救急センター薬剤師の佐野邦明氏が執筆し、奈良県立医科大学感染症センターの笠原敬先生が監修した『抗菌薬BOOK&MAP』(シーニュ、2022年6月)です。

本書は、解説書である「抗菌薬BOOK」1冊と、抗菌薬の一覧表「抗菌薬MAP」2枚で構成された変則的なパッケージで、薬剤師による単著の感染症書というだけでもかなり珍しい1冊です。私は普段、病棟薬剤師として処方鑑査や副作用モニタリングに関わりながら、感染制御・抗菌薬適正使用業務にも携わっていますが、特に「アレルギー歴あり」の患者で代替薬を考えるとき、本書を最も頻繁にめくっています。

このレビューでは、現役の病院薬剤師として実際に通読し、職場で何度も参照してきた立場から、章ごとの読みどころと薬剤師に刺さるポイント、そして物足りない点までを率直にまとめます。

この記事でわかること

  • 『抗菌薬BOOK&MAP』の構成と、何が「他書と違う」のか
  • 薬剤師が読むときに特に効く章はどこか
  • βラクタムアレルギー章が「英文書籍も含めて見たことがないほど詳しい」と監修者が言う中身
  • 本書だけでは補えないポイントと、どんな書籍と組み合わせると良いか
  • どんなキャリアステージの薬剤師に向くか

本書の構成と書誌情報

書誌情報

項目 内容
タイトル 抗菌薬BOOK&MAP──抗菌薬治療の要点解説書(抗菌薬BOOK)1冊 と 抗菌薬詳細一覧表(抗菌薬MAP)2枚
著者 佐野邦明(獨協医科大学埼玉医療センター・薬剤部)
監修 笠原敬(奈良県立医科大学感染症センター・感染管理室)
出版社 シーニュ
発行年 2022年6月
価格 3,300円(税込)※2026年5月時点
ページ数 B5判 138ページ+MAP 2枚(大判 512×369mm、小判 297×210mm)
ISBN 978-4-910440-04-0
特典 PDF版MAP ダウンロード可(1ライセンス/購入)

パッケージ全体の構成

本書は3つの要素で成り立っています。

  1. 抗菌薬BOOK:A5強の薄めの解説書。前半(1〜3章)が基礎、後半(4〜8章)が現場で深掘りしたい応用テーマ。
  2. 抗菌薬MAP(大判):細菌×抗菌薬のマトリクス。第一選択薬、用法用量、小児用量、腎機能調節、移行性などが1枚に集約されています。
  3. 抗菌薬MAP mini(小判):腎機能別の用法用量に特化した携帯用一覧表。

PDF版がダウンロード可能なので、私は紙のMAPを病棟側のカウンターに置いて、PDFはiPad Pro(GoodNotes)にも保存しています。電子カルテ閲覧PCの横に置きやすく、当直帯にとてもありがたい運用ができています。

章ごとの読みどころ

『抗菌薬BOOK』の章構成は以下のとおりです。

テーマ 薬剤師実務への効き方
1 抗菌薬治療の基本 感染症診療の流れと情報収集の枠組み
2 臨床で出合う主要な細菌 グラム染色像と「SSCoNE」「SPACE」など語呂合わせ
3 臨床でよく使用する抗菌薬 系統別の使い分け、組織移行性
4 妊婦と抗菌薬 妊娠週数・授乳期での選択
5 βラクタマーゼ ESBL/AmpC/カルバペネマーゼの読み解き
6 血液培養 採取・解釈・コンタミ判断
7 敗血症 qSOFA/1時間バンドル
8 抗菌薬アレルギー βラクタムを中心に、即時型・遅延型・交差反応

このうち、薬剤師実務で「最も役立つ」と感じたのは第5章(βラクタマーゼ)、第7章(敗血症)、そして第8章(抗菌薬アレルギー)の3つです。順に紹介します。

第5章 βラクタマーゼ:耐性化メカニズムが地続きに見える

ESBL、AmpC、カルバペネマーゼという3大βラクタマーゼについて、それぞれの分子クラス、産生菌、代替薬の選び方が整理されています。

特に良いと感じたのは、AmpC型βラクタマーゼの「誘導型/抑制解除型/プラスミド型」の違いを表で示し、ESCAPPM(Enterobacter/Serratia/Citrobacter/Aeromonas/Proteus vulgaris/Providencia/Morganella)という古典的な語呂合わせまで紹介しているところです。「SCE で第3世代セフェムが効かない経過のとき、AmpC を疑い、感受性結果次第でタゾバクタム/ピペラシリンかセフェピムへ振る」という思考プロセスが、薬剤師でも追えるように書かれています。

加えてカルバペネマーゼ(KPC・NDM・IMP・OXA-48)の地理的分布まで触れていて、海外渡航歴・他院入院歴のある患者の鑑別を支える知識として実務的です。

第7章 敗血症:薬剤師がベッドサイドで「動く」根拠

Surviving Sepsis Campaign の1時間バンドルが、qSOFA・SOFA・NEWS のスクリーニングフローと一緒に示されています。

私が病棟で qSOFA を取って医師に共有したり、敗血症性ショック疑いの患者で乳酸値・抗菌薬投与開始時刻を確認するときに、根拠資料として本章を引用することが何度かありました。「敗血症性ショックの患者では抗菌薬投与が1時間遅れるごとに死亡率が2〜7%増加する」など、医師に対しても薬剤師から提案するときの裏付けになる数字がコンパクトに揃っています。

第8章 抗菌薬アレルギー:本書の最大の山場

監修の笠原先生がはしがきで「私はβラクタムアレルギーについてこれほどくわしく執筆されたものを、英文も含めて見たことがありません」と書いているのが、この第8章です。実際に通読すると、確かに国内で読める日本語書籍としては群を抜いた深さがあります。

即時型アレルギーにおける交差反応

ペニシリン系・セフェム系・カルバペネム系・モノバクタム系・βラクタマーゼ阻害薬を横断する側鎖構造の比較表が掲載されており、たとえば次のような薬剤師実務に直結する情報が整理されています。

  • セファゾリン(CEZ)の周術期使用:ペニシリン系や他のセフェム系と類似側鎖を持たないため、βラクタム系抗菌薬による重症アレルギー歴やセファゾリンそのもののアレルギーがない患者では、安全に使用できると報告されている。
  • ペニシリンアレルギー患者へのカルバペネム系:交差反応は0.5%未満と報告されており、比較的安全に代替として使用できる。
  • アズトレオナム(モノバクタム系):他のβラクタムと中心構造が異なるためβラクタムアレルギーの代替薬として有用。ただしセフタジジム(CAZ)と同一、セフトロザン(CTLZ)と類似の側鎖を持つため、これらにアレルギーのある患者には使えない。
  • スルバクタム/アンピシリン(SBT/ABPC)でアレルギーがある患者にスルバクタム/セフォペラゾン(SBT/CPZ)を投与する際の注意(スルバクタムの中心構造がペニシリン系と類似のため)。
  • クラブラン酸とタゾバクタムは他のβラクタムとの交差反応の報告がない。

遅延型アレルギー(SJS/TEN/DIHS/AGEP)

ここが、薬剤師として最も評価したい部分です。

重症の遅延型アレルギー既往がある場合は、どのβラクタム系抗菌薬も避けるべきだが、原因抗菌薬がアズトレオナムでない場合はアズトレオナムを安全に使用できる、という具体的な代替薬選定の指針が示されています。ニューキノロン系やアミノグリコシド系といったβラクタム系以外への切り替えも明記されており、SJS/TEN既往患者で抗菌薬選択に迷う場面で頼れる章になっています。

このあたりの「アレルギー歴の整理」と「代替薬選定」の話は、私が note にまとめた『病棟薬剤師の処方鑑査でSJSリスクを下げる:アレルギー歴確認と成分ベースチェックの実務』と直接つながるテーマです。本書で交差反応の枠組みを掴み、note で実務の運用に落とすという読み方も成り立ちます。

抗菌薬MAP の使い勝手

私が手元のMAP(PDF版、v1.1)を実際に開いて確認したところ、4ページ構成でした。

  • 1ページ目:抗菌薬MAP(メイン大判)。細菌×抗菌薬の感受性マトリクスと用法用量、qSOFA/SIRS スコアリング表、用語解説(PCP・PRSPなど)、グラム陰性桿菌分類表
  • 2ページ目:抗真菌薬一覧+抗MRSA薬一覧+カンジダ感染症での抗真菌薬選択フローチャート+血液培養カンジダ陽性時の対応(眼内炎除外3-4回・陰性後2週間継続など)
  • 3〜4ページ目:抗菌薬MAPmini(腎機能別の早見表、ADEC・FASS分類付き)

凡例は「基本的な第1選択薬」「臨床的に効果が期待できる」「臨床的な効果は弱い」の3段階で色分けされており、追加で赤字は重症等の投与量・負荷投与量、青字は維持量・予防投与量という配色ルールがあります。マスを見るだけで「第一選択かどうか」と「重症時に量を増やすべきか」が同時に分かる作りです。

各抗菌薬の行には、商品名・略号・一般名・スペクトル類・注射用法用量・腎機能別投与量(>80/80-30/30-10/10>/HD)・小児用量(mg/kg/日)・吸収率が並んでいます。私が特に役立つと感じたのは、内服セフェム系の吸収率がそのまま記載されている点で、CFDN 25%、CPDX-PR 46%、CFPN-PI 25%、CDTR-PI 16% といった数字が一目で比較できます(同欄に「CFDN、CFPN、CDTRは吸収率が低いため安易に使用しないこと」という著者の注意書きも併記)。

MAPには随所に著者による具体的な注意喚起が手書き感覚で添えられており、私が読んで「現場で薬剤師が見落としやすいポイント」だと感じたものを抜粋すると以下のとおりです。

  • キノロン系:「キノロン系は抗結核作用あり、肺炎への使用は結核の否定を!」「キノロン耐性E.coli増加中!」「UTI→キノロンの安易な使用に注意!」
  • 抗ウイルス薬:「VACV、FCVは精神神経症状の副作用あり。腎障害では投与量厳守!」
  • ST合剤:「Scrの偽性上昇あり。ACEI/ARB併用で高K注意」
  • 小児:「セフカペン、セフジトレンはピボキシル基による低カルニチンに伴う低血糖に注意!」
  • メトロニダゾール:「飲酒を避ける。ワーファリン作用増強注意」
  • DOXY・CLDM:「眠前服用避ける」
  • RFP:「尿汗コンタクトレンズ着色注意」

加えて、組織移行性に関する補足も表中に明記されており、私が読んだ範囲では「PIPCは胆汁移行良好」「第3・第4世代セフェムは髄液移行あり」「VCM or DAP は全身分布良好(感染性心内膜炎の文脈)」「キノロン系は吸収/分布良好」といった注釈が、対応するマスや欄外に添えられています。代替薬を選ぶときに「どこに届くか」を1枚で確認できます。

参考資料として「ABX Guide、UpToDate、Sanford Guide、感染症レジデントマニュアル、抗菌薬TDMガイドライン、各添付文書、各インタビューフォーム」が冒頭に明記されており、出典が示されている点も信頼できます。

腎機能別の MAPmini は、9区分(120-90/90-80/80-60/60-50/50-30/30>/10>/HD/CRRT)と細かく刻まれており、HD後の追加投与(「HD後 +0.5g」など)まで明示されています。病棟で夜間に腎機能を確認するとき、最初の30秒に手が伸びるのはこの MAPmini です。

カンジダ感染症のフローチャートは、「中心静脈カテ等のデバイス除去不可」「カンジダ髄膜炎or心内膜炎の疑い」のいずれかあれば L-AMB、「敗血症性ショック」「最近のアゾール系使用歴」「アゾール系耐性カンジダの検出率が高い」のいずれかあれば MCFG or CPFG、いずれもなければ F-FLCZ、という3分岐です。5-7日間は点滴で投与し、内服変更可能な3条件(臨床改善・血培陰性化・アゾール感受性)も明記されています。私が病棟で抗真菌薬の初期選択を確認するときに、判断の物差しとして使っています。

良かった点

1. アレルギー章の深さが薬剤師目線にぴったり

英文書籍を含めても、ここまで側鎖構造ベースで βラクタム系の交差反応を整理した日本語書籍は珍しいです。SJS/TEN/DIHS/AGEP のような重症遅延型アレルギーの既往がある患者に、どの抗菌薬を選び、どれを避けるかという問いに、本書は具体的な答えを示してくれます。

2. 文献の出典が明確で原典に当たりやすい

各章の末尾に PMID 付きの文献リストが並んでおり、本文の記述から原典までたどれるようになっています。Lancet・JAMA・NEJM・Clin Infect Dis などの主要誌が中心で、文献の選び方にも著者の臨床感覚が反映されています。「この記述の根拠は?」と疑問が湧いたとき、PubMed で確認できる安心感は大きいです。

3. MAP と BOOK が物理的に分かれている

MAP を広げたまま BOOK を読めるので、本のページをめくりながら表と本文を往復する苦痛がありません。当直机に MAP、白衣のポケットに MAP mini、自宅学習用に BOOK、という分担運用が成立します。

4. 価格が良心的

B5 サイズ138ページの解説書、大判MAP、携帯MAP、PDF版MAPまでついて3,300円(税込)は、医療書としてはかなりリーズナブルな価格設定です。1冊購入で複数のフォーマットを使い分けられる点はコストパフォーマンスとして高いです。

物足りない点・注意点

率直に書きます。本書は素晴らしいですが、これ1冊では当然カバーできない領域があります。

1. 真菌・ウイルスはほぼ扱わない

タイトルどおり「抗菌薬」の本なので、抗真菌薬・抗ウイルス薬の解説は最小限です。カンジダ血症やCMV感染症など、病棟で薬剤師がよく出会う場面の判断には、別途『日本語版サンフォード感染症治療ガイド2025(第55版)』や『レジデントのための感染症診療マニュアル 第4版(青木眞)』を組み合わせる必要があります。

2. 疾患別(市中肺炎、UTI、IE など)の章立てがない

「肺炎の治療」「尿路感染症の治療」を疾患単位で読みたい場合、本書は構成上それに直接答える本ではありません。MAP の「主な感染症」欄や本文中の各論で触れられてはいますが、まとまった疾患別ガイドが欲しい人は、『レジデントのための感染症診療マニュアル 第4版(青木眞)』のような臓器・疾患軸の書籍を併用するのが現実的です。

3. 索引が控えめ

巻末索引は欧文菌名と「欧文菌名以外」の2系統で、3ページ程度。本書は通読向きの構成ですが、「クラブラン酸の交差反応について」のような細かい論点を後から引きたいときには索引で見つけにくく、付箋・書き込みを重ねる前提で運用するのが現実的です。

4. 改訂サイクルが速い領域である

2022年6月発行から数年が経過しており、感染症ガイドライン・薬剤耐性菌の疫学情報には、本書発行後に更新が入っている分野もあります。CRE の分布、HIV/HCV 関連の細かい情報などは、最新のガイドラインで補足する読み方が安全です。

こんな薬剤師に向く

  • 若手(1〜5年目)の病院薬剤師:抗菌薬の系統別の整理がついていない時期に、MAP を眺めているだけで頭の地図ができていく
  • 病棟薬剤師として処方鑑査をする中堅薬剤師:アレルギー章を起点に、代替薬選定の幅が一気に広がる
  • 救急・ICUに関わる薬剤師:CRRT・敗血症・肥満患者用法用量など、ICU薬剤師の悩みどころが押さえられている
  • 感染制御・抗菌薬適正使用に踏み込みたい薬剤師:ESBL/AmpC/カルバペネマーゼの章はICT・AST業務の基礎固めになる

逆に、感染症全般を体系的に1冊で学びたい人や疾患軸で勉強したい人は、本書を「副読本」として位置づけ、青木眞先生のマニュアルなどを主軸に据えるほうが学習効率は良いと思います。

関連記事

さらに深く学びたい方へ

『抗菌薬BOOK&MAP』の第8章(アレルギー)を読み終えた後、「実際の処方鑑査でアレルギー歴をどう聞き、どう成分ベースで重複・交差をチェックするか」を運用レベルに落としたnoteを公開しています。SJS/TEN既往患者の実務にそのまま使える具体例を中心に書きました。

総評

⭐⭐⭐⭐☆(5段階で4.5) アレルギー章の深さと MAP の実用性で、薬剤師なら買って損はない1冊。疾患軸の解説は別書で補う前提で。

書籍化までに4年を費やしたという監修者の言葉どおり、ページ数の割に密度が高く、現場の薬剤師が「ここを知りたい」と思うところを著者自身が同じ目線で書いてくれている感覚があります。私は職場のロッカーと自宅、両方に1冊ずつ置いています。

購入リンク

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著者について

現役の病院薬剤師。薬物療法専門薬剤師、医療薬学専門薬剤師。普段は病棟薬剤師として勤務しながら、感染制御・抗菌薬適正使用に関わる業務にも従事しています。専門資格を目指す薬剤師、若手〜中堅の病院薬剤師に向けて、実務に基づく知識と経験を発信しています。

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