書評
『緩和治療薬の考え方、使い方 ver.4』レビュー──精神症状の薬がすぐ引ける「1.5次資料」、Ver.3から何が変わったか
2026-07-02
📢 この記事にはアフィリエイト広告(PR)が含まれます。 当ブログでは、私が実際に手に取った医療書のレビューを行っています。
『緩和治療薬の考え方、使い方 ver.4』レビュー──精神症状の薬がすぐ引ける「1.5次資料」、Ver.3から何が変わったか
緩和ケアの患者さんを病棟で受け持ったとき、症状には対応したいのに、薬の選択でほんの一瞬、手が止まる。そんな経験、ありませんか。私はあります。特に、痛みそのものより、その周りで起きてくる不眠やせん妄、不安、そして終末期の鎮静。「この場面ならどの薬が第一選択で、なぜそうなのか」を迷いなく言えるか。緩和を専門にしていない薬剤師ほど、ここで弱点が出やすいと感じてきました。
だから改訂を待っていたのが、森田達也先生の『緩和治療薬の考え方、使い方』です。私は前版(Ver.3)を読んで「わかりやすさ」に何度も助けられた一人で、森田先生の本は良さそうなものがあれば手に取るようにしています。2026年6月に ver.4 が出たので、迷わず買いました。
先に結論を書きます。「Ver.3を持っていても買い直す価値があるか」と聞かれたら、私は「ある」と答えます。この記事では、その理由を、私がいちばん助けられた精神症状の章(不安・抑うつ/不眠/せん妄/鎮静)を中心に、率直にまとめます。
この記事でわかること
- 『緩和治療薬の考え方、使い方 ver.4』の基本情報と全体構成(全14章)
- 本書のコンセプト「1.5次資料」とは何か──なぜAIチャット時代にこの本が要るのか
- Ver.3 → Ver.4 で変わった点(全面書き直し・新規薬剤・販売中止薬の代替・文献の重要度表記)
- 私がいちばん助けられた「精神症状の4章」が、なぜ病棟で"すぐ引ける"のか
- 物足りない点と、どんな薬剤師に向く/向かないか
書誌情報
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 書名 | 緩和治療薬の考え方、使い方 ver.4 |
| 著者 | 森田達也(聖隷三方原病院 副院長/緩和支持治療科) |
| 編集協力 | 白土(内藤)明美(宮崎市郡医師会病院 緩和ケア科部長) |
| 出版社 | 中外医学社 |
| 発行 | 2026年6月(初版第1刷 2026年6月25日) |
| 定価 | 4,400円(本体4,000円+税) |
| ページ数 | 416ページ |
| 判型 | A5判 |
| ISBN | 978-4-498-11715-0 |
※価格・仕様は2026年7月時点の情報です。最新の情報は各販売サイトでご確認ください。
本書のコンセプト──「1.5次資料」という立ち位置
Ver.4を読んでまず面白かったのが、著者自身が「4版への序」で、この本の役割をあらためて定義し直していることでした。
症状ごとにガイドラインが定期的に更新され、マニュアルも次々出て、AIチャットに聞けば「〇〇って何?」の答えがすぐ返ってくる時代。そんな中でもこの本が必要とされるなら、どういうものであるべきか。そう考えたうえで、著者は本書を「1.5次資料」と位置づけています。
- 一次資料=個々の原著論文(original paper)
- 二次資料=ガイドライン・教科書・マニュアル
- その橋渡し(1.5次)=各研究が、どういう背景で、何を示そうとして、どういう結果になり、で何が言えるのか。その経緯(perspective)まで見える形でまとめたもの
この立ち位置の説明に、私はとても納得しました。ガイドラインの系統的レビューでは、何十年前の粗い研究も、最近のよくデザインされた研究も、「エビデンスレベル」という枠の中では平面的に並びがちです。本書はそこに、これはランドマークだった、今ならこれがリファレンスだ、という強弱をつけていく。だから各領域が、最初どう始まって、どう変わってきて、今どこにいるのか、という見通しごと頭に入ってきます。
薬の名前と用量だけ知りたいなら、正直、他の本でもAIチャットでも足ります。この本の価値は、なぜ今この薬がこの位置にいるのか、というストーリーごと入ってくるところ。ここはVer.3から一貫した強みです。
全体構成(全14章)
Ver.4 は、症状・薬効群ごとに14章で構成されています。
| 章 | テーマ |
|---|---|
| §1 | 痛みの治療薬 オピオイド(総論・各論) |
| §2 | 痛みの治療薬 鎮痛補助薬 |
| §3 | 非オピオイド鎮痛薬(アセトアミノフェン・NSAIDs) |
| §4 | 呼吸困難の治療薬 |
| §5 | 悪心・嘔吐の治療薬 |
| §6 | 食欲不振の治療 |
| §7 | 消化管閉塞の治療薬 |
| §8 | 便秘の治療薬 |
| §9 | 倦怠感の治療薬 |
| §10 | 不安・抑うつの治療薬 |
| §11 | 不眠の治療薬 |
| §12 | せん妄の治療薬 |
| §13 | 鎮静の治療薬 |
| §14 | コクランレビューのまとめ |
痛み(オピオイド・鎮痛補助薬・非オピオイド)に3章を割きつつ、呼吸困難、消化器症状、そして精神症状(不安抑うつ・不眠・せん妄・鎮静)まで、緩和ケアで出会う症状をひととおりカバーしています。巻末にはコクランレビューのまとめと索引もあって、通読しても、辞書的に引いてもいい構成です。
Ver.3 → Ver.4 で変わった点
「Ver.3を持っているけれど、買い直す意味はあるのか」。ここが気になる人がいちばん多いはずなので、先に整理します。私が確認できた範囲と、著者が序文で明言している変更点は、次のとおりです。
① 本文を全面的に書き直している
小手先の追記ではなく、本文全体を新しく書き直したと著者は明言しています。「大局観を重視し、ASCO・ESMO・MASCC・EAPCなど各国のガイドラインを『従う』のではなく『眺める』ことで、まあだいたい同じ、という太い幹をつかむ」というスタンスが、より徹底されています。
② 新規薬剤の位置づけが整理された
この数年で緩和領域に登場した薬剤の位置づけが、あらためて整理されています。序文では、新規下剤、ジクロフェナクテープ、ロナセンテープ、鎮痛補助薬などが例に挙がっていて、新規薬剤の立ち位置が定まってきたことで、治療方針の記述そのものを大きく変えた箇所もあるとのこと。
Ver.3にはなかった薬剤やエビデンスが確かに増えている。これは、Ver.3を読み込んでいた私の実感とも一致しました。
③ 販売中止になった薬剤の"代替薬"が書き加えられた
国内で販売中止になった薬剤(序文ではタペンタドール、スコポラミン、レボメプロマジンなどが挙がっています)について、その代替をどうするかが書き加えられています。国内の緩和医療で使える薬は、海外との「ずれ」が年々大きくなっていて、国内でのみ保険適用のもの、逆に海外では標準なのに国内販売中止のもの、という差を知る機会にもなります。日々処方を見る薬剤師には、地味に効いてくる更新です。
④ 文献に「重要度」の記号がついた(新機軸)
Ver.4で私がいちばん「うまいな」と思った新機能がこれです。巻末の文献に一言コメントを添えたうえで、重要度を記号で示すようになりました。
- ★☆☆:原著論文。詳しく知りたい人・マニア向け
- ★★☆:その時々のランドマーク論文や新規知見。できれば一度は丁寧に読みたい
- ★★★:領域の知見を確実にした検証試験・方向性を決定づけたもの
- ●:系統的レビュー
- ■:ガイドライン
膨大な引用文献の中から「まずどれを読めばいいのか」が一目でわかる。エビデンスに強弱をつけて見せる、という本書のコンセプトが、文献リストのレベルまで一貫して降りてきていて、学習の設計として素直に優れていると思いました。
私がいちばん助けられた「精神症状の4章」
ここからが、この本を推したい一番の理由です。
本書は§10〜§13で、不安・抑うつ/不眠/せん妄/鎮静という精神症状系を、まとめて4章ぶんカバーしています。著者は初版の「はじめに」で、「一般の医師にとって整理されにくい精神科領域の記述を多くした」「精神科医には常識でも、一般の医師は何度みても頭に残らない内容を、視覚的に表現できるよう心がけた」と書いています。この設計思想が、Ver.4でもしっかり効いています。
なぜこの4章が「病棟ですぐ引ける」のか
緩和ケアの精神症状は、緩和を専門にしていない薬剤師にとって、いちばんあいまいになりやすい領域だと感じます。痛みのオピオイドなら換算表もあるし、体系立てて学ぶ機会も多い。でも、夜眠れない終末期の患者さんに、何を、なぜ選ぶか、となると、途端に自信が揺らぐ。そこを、本書は薬剤別に整理して見せてくれます。
章立てを見るだけでも、それぞれの症状に「どの選択肢があるのか」がすぐ引けます。
- 不眠(§11):オレキシン受容体拮抗薬(DORA)、Z-drug、メラトニン受容体作動薬などを整理
- せん妄(§12):ハロペリドール、クエチアピン、リスペリドン、ロナセンテープ(貼付薬)、オランザピンなどを比較
- 不安・抑うつ(§10):ベンゾジアゼピン系、SSRI・SNRI、ミルタザピンなどの鎮静系抗うつ薬、新しいところではズラノロン
- 鎮静(§13):ミダゾラム、フェノバルビタールなど
この症状には、この薬たちが候補で、それぞれの特徴はこう、という形で並んでいるので、症状から薬へ最短距離で引ける。私がこの本を「すぐ使える」と感じる一番の理由がここです。近年出た貼付薬(ロナセンテープ)や新しい薬(ズラノロン)まで拾われていて、更新の手触りもちゃんとあります。
※ 具体的な投与量・投与方法・使い分けの根拠は、本書の核心にあたる部分なので、この記事では引用しません。実際の処方判断は、必ず本書本文と最新の添付文書・ガイドラインをご確認ください。
「マニア向け」の余白が、この本の奥行き
もうひとつ気に入っているのが、「マニア向け」とはっきり書かれたエビデンスのまとめが、随所に置かれていることです。各章の本筋は、忙しい臨床家がさっと使える形にしつつ、「もう少し深く知りたい人はどうぞ」という一段深い層が、別に用意されている。
先ほどの文献★表記もそうですが、この本は、今すぐ使いたい人と、背景まで踏み込みたい人の両方に、別々の入り口を用意しているのが上手いと思います。忙しい日は本筋だけ引いて、時間ができたときにマニア向けパートと★★★の文献に戻る。この二段構えは、時間に追われながら学びも止めたくない世代に、そのままはまる使い方だと思います。
物足りない点・注意したいところ
全肯定はしません。気になる点も率直に書いておきます。
- 初学者には情報量が多い:本書は「大局観」と「経緯」を重視する分、記述に厚みがあります。緩和ケアにこれから触れる人が最初の1冊にすると、情報量に押されるかもしれません。まずは薄いポケットマニュアルで全体像をつかんでから本書に来るほうが、噛み合うと思います。
- 辞書的な即答性だけを求めるなら、他の選択肢もある:本書の価値は「なぜこの位置にいるか」のストーリーにあります。用量だけ最速で確認したいなら、もっとコンパクトな本が向く場面もあります。
- A5判・416ページで、携帯用ではない:白衣のポケットに常備、という判型ではありません。デスクや病棟の参考書として、腰を据えて使う一冊です。
これらは「欠点」というより、本書の狙い(1.5次資料)とミスマッチが起きうる場面、という整理が正確だと思います。
こんな薬剤師に向く/向かない
向いていると思うのは、こんな人です。
- 病棟で緩和ケアの患者さんを時々受け持つ、緩和は専門ではない薬剤師
- 痛みは何とかなるけれど、不眠・せん妄・不安・鎮静といった精神症状で手が止まりがちな人
- Ver.3を持っていて、この数年の新規薬剤・販売中止薬・ガイドライン更新を一気にアップデートしたい人
- 用量だけでなく、なぜこの薬がこの位置なのか、まで理解して患者さんや多職種に説明したい人
逆に、急いで買わなくてよいのは、こんな人だと思います。
- 緩和ケアを専門にしていて、最新の一次論文を日常的に追っている人(本書の"橋渡し"の役割は、すでに自分の中にあるはず)
- 緩和ケアにこれから初めて触れる人(まずは薄いマニュアルからのほうが噛み合いやすい)
- Ver.3を最近読み込んだばかりで、当面アップデートの必要を感じていない人
総評
★★★★☆(5点満点中4点)
Ver.3の「わかりやすさ」を土台に、全面書き直し・新規薬剤の整理・販売中止薬の代替・文献の重要度表記という更新で、読み物としての面白さと、実務での引きやすさを両立させた改訂だと感じました。特に、緩和を専門にしない病棟薬剤師にとって鬼門になりがちな精神症状の4章が、症状から薬へ最短で引ける形で整理されているのは、実務上の価値が大きい。
4点にとどめたのは、初学者にはやや重いことと、携帯用ではない判型という、あくまで「使う人と場面を選ぶ」性質を踏まえてのものです。病棟で緩和ケアに時々関わる薬剤師には、迷わず勧められる一冊でした。
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緩和ケア領域では、月刊誌の特集でも学びを更新しています。CKD(慢性腎臓病)の緩和ケアを扱った号のレビューもあわせてどうぞ。
著者について
現役の病院薬剤師(からみそ)。日本医療薬学会の薬物療法専門薬剤師・医療薬学専門薬剤師を保有しています。普段は病棟薬剤師として処方鑑査や副作用モニタリングに携わりながら、感染制御・抗菌薬適正使用の業務にも関わっています。実際に手に取った医療書のレビューと、資格取得の実務を、ブログと note で発信しています。
本記事は書籍の内容を紹介・論評するものであり、特定の治療・処方を推奨するものではありません。実際の薬物療法は、必ず最新の添付文書・ガイドラインおよび本書本文をご確認のうえ、個々の患者さんの状態に応じてご判断ください。