書評

「まとめ抗菌薬」を薬剤師が読むと何が見えるか──表とリストで一覧・比較・優先順位まで一気に整理できる1冊のレビュー

2026-05-28

抗菌薬·感染制御·初学者·病院薬剤師·書評

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「まとめ抗菌薬」を薬剤師が読むと何が見えるか──表とリストで一覧・比較・優先順位まで一気に整理できる1冊のレビュー

まとめ抗菌薬 表とリストで一覧・比較できる、特徴と使い方(山口浩樹著・佐藤弘明編、羊土社)の書影

「もし、抗菌薬の本を1冊だけ選べと言われたら——」迷わず勧めたい一冊があります。鹿児島にある200床規模の臨床研修病院で、日々研修医への教育に従事している感染症内科医・山口浩樹先生(X旧Twitterで「新米ID」として発信)が著し、佐藤弘明先生が編集した『まとめ抗菌薬 表とリストで一覧・比較できる、特徴と使い方』(羊土社、2024年3月)です。

私は普段、病棟薬剤師として処方鑑査や副作用モニタリングに携わっています。本書は手にとってから何度も開きっぱなしになっており、特に第3章「抗菌薬の使い方まとめてみました」は薬剤師の実務にもっとも効くパートで、本書を買う価値の大半がここに集約されているといっても過言ではありません。同じフォーマットで全系統を並べる構成は、私が知る限りほかの抗菌薬本では見たことがない見せ方です。

以前レビューした『抗菌薬BOOK&MAP』(佐野邦明著、シーニュ、2022年)とは性格が明確に異なる本なので、両者の使い分けも記事末尾で整理します。

この記事でわかること

  • 『まとめ抗菌薬』が「初学者向け・優先順位明示型」と呼べる根拠
  • 第3章「抗菌薬の使い方」の統一フォーマットがもたらす圧倒的な見やすさ
  • 同じ系統内(PCG→ABPC→AMPC→ABPC-SBT→PIPC→PIPC-TAZ)の違いが、表1枚で直感的に伝わる構成
  • 編集者・佐藤弘明先生が掲げた3つの方針(期間・優先順位・徹底推敲)
  • 本書を最大限に活かす読み方
  • 『抗菌薬BOOK&MAP』との使い分け方
  • どのキャリアステージの薬剤師に向くか

書誌情報

項目 内容
タイトル まとめ抗菌薬 表とリストで一覧・比較できる、特徴と使い方
著者 山口浩樹(感染症内科医、鹿児島にある200床規模の臨床研修病院)
編集 佐藤弘明
出版社 羊土社
発行年 2024年3月(初版2024年3月15日 第1刷発行)
価格 3,960円(本体3,600円+税)※2026年5月時点
判型 A5判
ページ数 302ページ
ISBN 978-4-7581-2413-3

本書の章構成

テーマ 中身
第1章 感染症診療の原則まとめてみました 患者背景/感染源/原因菌/ドレナージ/投与時間と投与量/治療期間/治療中アセスメント/効かない5つの問題/最適化(de-escalation)
第2章 臨床的に重要な細菌まとめてみました グラム陽性球菌(GPC)/グラム陽性桿菌(GPR)/グラム陰性球菌(GNC)/グラム陰性桿菌(GNR)
第3章 抗菌薬の使い方まとめてみました ペニシリン系/セフェム系/カルバペネム系/キノロン系/アミノグリコシド系/マクロライド系/リンコマイシン系/テトラサイクリン系/その他+ESBLとAmpC コラム
第4章 抗真菌薬の使い方まとめてみました アゾール系/キャンディン系/ポリエン系
第5章 感染症ごとの使い方と考え方まとめてみました 各疾患(細菌性髄膜炎・市中肺炎・院内肺炎・急性胆嚢炎・急性腎盂腎炎・感染性心内膜炎など)について症例+ポイント+処方例
付録 1) 主な細菌感染症の治療期間/2) 腎機能に合わせた投与量/3) 妊婦と授乳婦への投与

編集者・佐藤弘明先生が掲げた3つの方針

本書「編集にあたって」(p.5)で佐藤先生が明示している方針が、本書のキャラクターを規定しています。私が読んで「ここが他の抗菌薬本と違う」と感じた3点が、そのままこの3方針と一致します。

方針1:抗菌薬を使用する期間を必ず記載してもらう

抗菌薬の選択は多くの本で記載されているものの、治療期間まで書かれていない本も多く、実臨床で「いつまで継続すればよいか」で困る場面がある——というのが佐藤先生の問題意識です(p.5)。本書では各疾患の章(第5章)にも個別の治療期間が示され、巻末付録「主な細菌感染症の治療期間」には、感染源・原因菌ごとに具体的な治療期間が一覧化されています。

私が処方鑑査で「抗菌薬の終了日が決まっていない」と気づいたとき、どの期間が妥当かを医師と相談する根拠として、付録の治療期間表をよく使っています。市中の腸炎から、深部感染(化膿性脊椎炎・感染性心内膜炎)まで網羅されており、臨床の判断軸として使いやすいまとまりです。

方針2:抗菌薬の優先順位・使い分けを記載してもらう

抗菌薬の本では「○○か△△、もしくは□□を使う」のように複数並列で記載されていることがあり、初学者は「どれを使えばよいか」で迷いがちです(p.5)。本書では編集者が著者にお願いして、なるべく一つに絞って提示してもらう構成になっています。

私が第5章「急性胆嚢炎」の章で確認した範囲では、患者背景の分岐(耐性菌リスクが低くバイタルが安定している場合/ESBL産生菌が疑われる場合/AmpC過剰産生菌が疑われる場合/耐性菌リスクが高くバイタルが不安定な場合/血液培養から酵母様真菌が検出された場合)ごとに第一選択の抗菌薬と用法用量が1つに絞って提示されています。「Aを使う/Bを使う」で並列するのではなく、患者背景の分岐ごとに第一選択を明示しているため、研修医も薬剤師も「次に何を提案するか」が読み取りやすい構成です(具体的な処方例の中身は本書をご参照ください)。

方針3:わかりやすくなるよう徹底的に推敲する

医学書では「編集者が医師でない場合にわかりにくさが残ってしまう」という構造的な問題があると佐藤先生は指摘しています(p.5)。佐藤先生自身が臨床医として働きつつ執筆、医師向けwebサイトのクイズ作成、国試予備校講師、国試模試作成も手がけている方で、「いかにわかりやすく文章を書くか」を日頃から考え、多くの医学書に目を通している立場から、自身が「わかりにくい」と感じた部分はすべて山口先生に質問・提案して推敲を重ねたとのことです。

私が本書を通読した感触として、専門用語の使い方や定義の明示、図表と本文の対応関係が崩れていないという印象を強く受けました。「初学者が読んでもつまずかない」を担保するための編集プロセスが、随所に効いていると感じます。

第3章「抗菌薬の使い方」が本書最大の魅力

本書のなかで私が薬剤師実務にもっとも効くと感じるのは第3章です。むしろ第3章だけで本書を買う価値があると言い切っていいレベルで、この章のためだけに本書を購入する選択も十分に正当化できます。

統一フォーマットの威力

第3章では、各抗菌薬について以下の統一フォーマットで記載されています。

  • 感受性菌・適応疾患の一覧表(菌種別の感受性マトリクス、◎/○/△/空欄)
  • 特徴(投与経路・主な治療対象菌・組織移行性・酸性環境や嫌気環境での挙動など)
  • 適応疾患(具体的な疾患名)
  • 投与量(腎機能別の1回量と間隔)
  • 妊婦・授乳婦への投与(class A/B などの分類と授乳可否)
  • 副作用

このフォーマットがペニシリン系・セフェム系・カルバペネム系のβラクタム系統に加え、キノロン系・アミノグリコシド系・マクロライド系・リンコマイシン系・テトラサイクリン系・その他に至るまで、主要な系統すべてで統一されています。そのため「同じ枠で見比べる」ことが自然にできる構成になっており、私が知る範囲では、ここまで徹底して抗菌薬を同一フォーマットで並べた書籍はほとんどなく、この設計こそが本書の独自性の核心です。

系統内の違いが、表1枚で目に飛び込んでくる

たとえばペニシリン系を順に並べると、PCG → ABPC → AMPC → ABPC-SBT → AMPC-CVA → PIPC → PIPC-TAZ という順序になります。これらを順に読むだけで、世代や配合の違いによってスペクトラムや適応がどう広がるかが、表の埋まり方の変化として直感的に伝わってきます。感受性表の「◎が増えていく」「△が出現する」といった変化が、薬剤の進化を物語として見せてくれるのです。

セフェム系第1〜4世代でも同様で、「世代が進むごとにグラム陰性菌への効きがどう変わるか」が、表のグラデーションとして一目でわかります。文章で説明されると数ページにわたる内容が、表を眺めるだけで頭に入る——この感覚は本書ならではの体験です。

ESBL・AmpCコラムが抗菌薬選択と直結

第3章のなかで特に良いと感じたのが、ESBLとAmpCを扱う独立コラムがペニシリン系の節に置かれていることです(目次より)。耐性化メカニズムを抗菌薬選択と直接結びつけて学べる構成で、薬剤師がアンチバイオグラムを読むときの足がかりになります。

第3章の私の使い方

私の使い方としては、第3章を「リファレンス」として開きっぱなしにしておき、研修医や新人薬剤師から個別の抗菌薬について質問が出るたびに該当ページを開いて、感受性表を一緒に指でなぞる、という使い方が定着しています。説明する側にとっても、教わる側にとっても、表が共通言語になるため議論が早く前に進みます。

良かった点

1. 菌種別感受性の一覧表が、抗菌薬選択の議論を加速させる

本書で私が最も推したいのが、第3章の各抗菌薬に付いている菌種別感受性の一覧表です。1つの抗菌薬につき、GPC(黄色ブドウ球菌・レンサ球菌・肺炎球菌・腸球菌)/GPR(リステリアなど)/GNC(髄膜炎菌・モラキセラ)/GNR(プロテウス・インフルエンザ菌・クレブシエラ・大腸菌・アシネトバクター・緑膿菌など)/嫌気性菌(バクテロイデス)といった臨床で頻出する菌種が横並びに並び、◎/○/△/空欄で感受性が示されています。

これによって、たとえば「ゲンタマイシンとアンピシリンを並べたとき、グラム陽性球菌と陰性桿菌の効き方がどう違うか」を、本文を読まずに表1枚で比較できます。私が研修医や新人薬剤師に「なぜこの感染症でこの抗菌薬を選ぶか」を説明するとき、この感受性表を一緒に開いて指でなぞる形が、もっとも納得感が高い教え方になっています。

2. 「次に何を選ぶか」がそのまま読める

方針2で触れたように、本書は「A or B or C」と並列するのではなく、患者背景の分岐ごとに第一選択が1つに絞って明示されています。私が新人薬剤師に「この症例ならどう提案する?」と聞かれたとき、本書を開いて該当処方例をベースに考えさせると、議論が前に進みます。

3. 治療期間が一覧で並んでいる

付録の治療期間表は、私が処方鑑査で抗菌薬終了日を確認するときの根拠資料として重宝しています。多くの抗菌薬書で省略されがちな部分が、本書では巻末に集約されています。「いつまで継続すればよいか」という臨床の頻出疑問に、本書はすぐに答えを出してくれます。

4. 各節末に文献リストがあり原典をたどれる

各節(疾患や抗菌薬)の末尾には文献リストが付いており、本文の記述から原典までたどれます。私が確認した範囲では N Engl J Med、Infect Dis Clin North Am などの主要誌のほか、『Antibiotic Essentials』(Cunha CB & Cunha AC eds, Jaypee Brothers Medical Publishers, 2020)のような実務系書籍も並んでおり、本書の記述の根拠を必要に応じて自分で確認できる作りになっています。

5. 1冊で「学び」と「現場参照」の両方をカバーする

抗菌薬の教科書は、通読向けと参照向けが分かれているのが一般的です。本書は表とリストを中心にしながらも、第1章の感染症診療6原則のように読み物として通読できる章も備えており、1冊で2つの役割をこなせます。これは持ち物を増やしたくない病院勤務にとってありがたい設計です。

本書を最大限に活かす読み方

本書はじっくり通読することも、リファレンスとして開きっぱなしにすることも、両方を想定して設計された一冊です。次のような読み方をすると、書籍に込められた価値がより深く引き出せます。

1. 第3章を「机に開きっぱなしのリファレンス」にする

第3章は一度通読したあと、研修医や新人薬剤師から質問が出るたびに開き直すリファレンスとして使うのが本書の本領発揮です。感受性表を一緒に指でなぞりながら説明できるため、教育の場面で議論が一気に前へ進みます。

2. 系統別に「縦読み」で違いを浮かび上がらせる

PCG → ABPC → AMPC → ABPC-SBT → PIPC → PIPC-TAZ、あるいはセフェム系第1〜4世代を順に縦読みすると、世代ごとのスペクトラム拡大が目で追えます。これは本書の独自フォーマットだからこそ可能な読み方で、抗菌薬の進化が一連の物語として頭に入ります。

3. 付録の治療期間表を「処方鑑査の脇に置く」

付録1の治療期間表は、ベッドサイドのカルテと並べて使うと真価を発揮します。感染源と原因菌を確定した瞬間に、終了日が逆算できる流れを作れます。

4. 『抗菌薬BOOK&MAP』と組み合わせて深掘りする

本書で抗菌薬の全体像を掴んだあと、『抗菌薬BOOK&MAP』でアレルギー対応・MAPでの俯瞰など深掘り領域に進むと、抗菌薬の知識が立体化します。「まとめ抗菌薬で基本、BOOK&MAPで応用」という順序が、私の経験では理にかなっています。

『抗菌薬BOOK&MAP』との使い分け

私は本書と『抗菌薬BOOK&MAP』を両方所持しています。役割分担は以下のように整理できます。

場面 開く本 理由
抗菌薬の初期選択(疾患別に第一選択を確認) 『まとめ抗菌薬』第5章 患者背景の分岐ごとに処方例が1つに絞って書かれている
抗菌薬の終了日を確認 『まとめ抗菌薬』付録1(治療期間) 感染源×原因菌で一覧化されている
夜間救急で腎機能調節を確認 『抗菌薬BOOK&MAP』MAPmini 紙の小判をポケットに入れて持ち歩ける
アンチバイオグラムを読むときの耐性化メカニズム確認 両方 『まとめ抗菌薬』のESBL/AmpCコラムと、『抗菌薬BOOK&MAP』第5章を併用
アレルギー歴あり患者の代替抗菌薬選定 『抗菌薬BOOK&MAP』第8章 側鎖構造ベースの交差反応・SJS/TEN既往患者の代替薬まで踏み込み
研修医に本を1冊勧める 『まとめ抗菌薬』 表とリスト中心で初学者の負担が少ない
中堅薬剤師の知識を底上げする 『抗菌薬BOOK&MAP』 アレルギーやβラクタマーゼ章が薬剤師目線で深い

順序として「『まとめ抗菌薬』で基本を作り、『抗菌薬BOOK&MAP』で深掘りする」というキャリアパスが、私の経験では理にかなっています。

こんな薬剤師に向く

  • 新人〜3年目の病院薬剤師:抗菌薬の全体像をつかみたい段階で、表とリスト中心の本書は学習負荷が低い
  • 病棟薬剤師として処方鑑査をする薬剤師:付録の治療期間表と腎機能別投与量表が日常業務で何度も役立つ
  • 研修医・専攻医教育に関わる薬剤師:処方例の引き写しと患者背景の読み替えで、新人指導の教材として使える
  • 感染制御・AST業務に関わりはじめた薬剤師:第1章の6原則と第3章のESBL/AmpCコラムが導入として有用

逆に、βラクタムアレルギーの代替薬選定や、紙のMAPを当直机に広げたい薬剤師は、本書を主軸にしつつ『抗菌薬BOOK&MAP』を併用する読み方が向きます。

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さらに深く学びたい方へ

『まとめ抗菌薬』第3章で抗菌薬アレルギーの基礎を押さえた後、「実際の処方鑑査でアレルギー歴をどう聞き、どう成分ベースで重複・交差をチェックするか」を運用レベルに落としたnoteを公開しています。SJS/TEN既往患者の実務にそのまま使える具体例を中心に書きました。

総評

⭐⭐⭐⭐⭐(5段階で5) 初学者〜中堅の薬剤師に「最初に1冊」を勧めるなら、現時点で第一候補にしたい一冊。第3章の統一フォーマットによる系統間比較は、ほかの抗菌薬本では味わえない圧倒的な見やすさです。優先順位の明示と治療期間表も実務に直結する設計で、机に常備したい一冊に仕上がっています。

こんな1冊を待っていた方へ

「抗菌薬の使い分けを表1枚で説明したい」「研修医に系統内の違いを直感的に伝えたい」と思ったことがある薬剤師なら、本書を開いた瞬間に「これを待っていた」と感じるはずです。書評を書きながら、私自身、これだけの情報密度と見やすさが3,960円で手に入るのは率直に得難いと感じました。ぜひ手にとって、第3章の感受性表を眺めてみてください。きっと机に常備する1冊になります。

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📚 まとめ抗菌薬 表とリストで一覧・比較できる、特徴と使い方(山口浩樹著・佐藤弘明編、羊土社、2024年)

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著者について

現役の病院薬剤師。薬物療法専門薬剤師、医療薬学専門薬剤師。普段は病棟薬剤師として勤務しながら、感染制御・抗菌薬適正使用に関わる業務にも従事しています。専門資格を目指す薬剤師、若手〜中堅の病院薬剤師に向けて、実務に基づく知識と経験を発信しています。

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