書評

月刊薬事 2026年6月号レビュー──持病のある患者ががんになったら、薬剤師は何を支えるか【月刊薬事レビューシリーズ

2026-06-05

月刊薬事·医療雑誌·がん薬物療法·感染制御·書評

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月刊薬事 2026年6月号レビュー──持病のある患者ががんになったら、薬剤師は何を支えるか【月刊薬事レビューシリーズ #2】

月刊薬事 2026年6月号(Vol.68 No.8、じほう)の書影

「がん患者の多くは、糖尿病や心疾患、腎臓病といった持病を一緒に抱えている。そういう患者を病棟で受け持ったとき、薬剤師は何をどこまで支えればいいのか」——そんな問いに正面から答えているのが月刊薬事 2026年6月号(Vol.68 No.8、じほう)です。特集名は「持病のある患者ががんになったら──併存疾患もまるごと最適化しよう」。

私は普段、病棟薬剤師として処方鑑査や副作用モニタリングに関わりながら、感染制御・抗菌薬適正使用業務にも携わっています。月刊薬事は私が大ファンで毎月購入している雑誌で、数年前から定期購読を続け、毎号通読してきました。本ブログでは前号から月刊薬事の月次レビューをシリーズとして始めており、本号がその第二弾です。第一弾の2026年5月号レビュー(2026年度診療報酬改定特集)もあわせてご覧ください。

第二弾の本号は「がんと併存疾患」がテーマです。私の専門である感染制御・抗菌薬適正使用の観点からも、本号後半に置かれた「がん患者の感染管理」は読みごたえがありました。この記事では、感染症にも腎機能にも日々向き合う一薬剤師として、本号をどう読んだかをお伝えします。

この記事でわかること

  • 月刊薬事 2026年6月号の特集構成(併存疾患別・全身管理・感染管理の3部)
  • がん患者の感染管理(固形がん・血液がん・ワクチン接種)を薬剤師の視点でどう読むか
  • multimorbidity(多疾患併存)時代のがん診療と薬剤師の役割
  • 腎機能が低下した患者のがん薬物療法(保存期CKD・維持透析)の勘所
  • 注目した連載(感染症マーカー×β-D-グルカンほか)
  • 定期購読 vs 単号購入の比較
  • 月刊薬事レビューシリーズの今後

書誌情報

項目 内容
雑誌名 月刊薬事 2026年6月号
巻号 第68巻 第8号(Vol.68 No.8)
発行 2026年6月1日(毎月1日発行)
出版社 株式会社じほう
定価 2,365円(税込/本体2,150円+税10%)※2026年6月時点
年間購読料 28,380円(12冊、送料じほう負担)
判型 A4変型判/204頁
ISSN 0016-5980
第三種郵便物認可 1959年12月26日

特集の巻頭文では、本特集が「併存疾患を制し、がん治療を制する──薬物療法全体を支えるGeneralistとして」と位置づけられています。がん領域に特化した薬剤師だけでなく、各疾患領域に精通した薬剤師や専門職が執筆に加わっている点が、本号の編集方針として明確に打ち出されています。

2026年6月号の全体構成

本号の特集は、私の読んだ印象では大きく3つのブロックに分かれています。最初のブロックは「持病を抱えたがん患者のマネジメント」で、ここがいちばん厚い。循環器(不整脈や心不全)、血液(血栓傾向)、肝臓、腎臓(保存期CKDから維持透析まで)、糖尿病、呼吸、免疫抑制下、精神・神経と、臓器を横断して併存疾患が並びます。私が読んでいて感心したのは、ひとつの臓器を深掘りするのではなく「がんになったら、この持病はどう扱うか」という共通の問いで全臓器を貫いている点です。

2つ目のブロックは全身管理にあたる部分で、骨代謝・リハビリ・栄養・電解質といった、がん治療を底から支える要素を扱います。そして3つ目が、私の専門にいちばん近い「がん患者の感染管理」。固形がん・血液がん・ワクチンの3視点で構成されています。臓器別の各論から全身管理、感染管理へと降りていく流れは、自分の受け持ち患者を思い浮かべながら拾い読みするのに向いていると感じました。

近年は、がんと持病の診療をつなぐ新しい学際領域(腫瘍循環器学、腫瘍腎臓病学、腫瘍糖尿病学など)が次々に立ち上がっています。本号は、その流れを薬剤師の実務に引き寄せて1冊にまとめた格好です。

私が特に注目した記事3本

毎号、私は注目記事を3本ほどピックアップし、マーカーを引きながら通読しています。今号は自分のキャリア(病棟薬剤師・感染制御・抗菌薬適正使用)と照らして、次の3本を厚く読みました。

1. がん患者の感染管理──固形がん・血液がん・ワクチン接種

私の専門にいちばん近いのが、特集の最終ブロック「がん患者の感染管理」です。固形がん・血液がん・ワクチンの3本立てで、感染制御や抗菌薬適正使用に関わる薬剤師には特に読みごたえがありました。

固形がん患者の感染管理

固形がん患者の感染リスクは、いくつもの経路から高まります。

  • 腫瘍そのものによる解剖学的バリアの破綻
  • 外科手術や医療デバイスに関連した感染
  • 抗がん薬による骨髄抑制
  • 免疫チェックポイント阻害薬(ICI)のirAE対策で使う免疫抑制療法

私がいちばん注目したのは、抗菌薬の薬剤耐性(AMR)が、がん患者では非がん患者よりも予後への影響が大きいと示されている点です。発熱性好中球減少症(FN)への対応と抗菌薬適正使用の両立は、私が日々の業務で最も神経を使うところ。本記事はそのバランスを、患者リスク評価という軸で整理しています。

感染予防を、栄養管理・口腔ケア・カテーテル管理・手指衛生・ワクチン接種という多面的なアプローチで語っている点も、薬剤師が関われる場面の多さを思い出させてくれました。

血液がん患者の感染管理

この記事の白眉は、感染防御機構の障害を4つのパターンに整理する枠組みです。

  • 好中球減少
  • 細胞性免疫障害
  • 液性免疫障害
  • 粘膜バリア障害

疾患名や化学療法レジメンから「どの防御機構が、どれくらい障害されているか」を読み解くと、予防戦略が立てやすくなる、という考え方です。造血細胞移植(HCT)の前処置による粘膜障害が血流感染の入り口になること、フルオロキノロン系薬(FQ)の予防下でもbreakthrough菌血症が起こり得ること、HCT後は時期と移植片対宿主病(GVHD)の有無で主な感染リスクが変わること──現場の判断に直結する話が続きます。薬剤部門と感染制御の双方の視点が織り込まれていて、現場のリアルがにじんでいました。

がん患者のワクチン接種

基本原則が、すっきり3点に整理されています。

  • 生ワクチンは、免疫抑制状態では原則禁忌
  • 不活化ワクチンは、原則推奨
  • 免疫抑制下では応答が落ちるため、可能なら治療開始前に接種する

抗CD20抗体やCAR-T細胞療法のあとはワクチン効果が落ちやすく、個別の判断が要る──この記述は、病棟で接種歴を確認するときの優先順位づけにそのまま使えます。

3本を続けて読むと、「がん患者の感染管理は、抗菌薬の選び方だけでなく、リスク評価から予防・ワクチンまで含めたトータルの設計だ」と腑に落ちます。感染制御に関わる薬剤師には、ここだけでも本号を手に取る価値があります。

2. 総論:multimorbidity時代のがん診療

特集の入り口にある総論は、がんと併存疾患をまるごと見渡す視点を示した1本です。

冒頭の数字に、まず引き込まれます。

  • 2023年に新たに診断されたがん患者は約99万3,500例
  • そのうち75歳以上が約半数(48.4%)
  • 65歳以上まで広げると76.1%

高齢のがん患者の多くは、糖尿病・心血管疾患・慢性腎臓病といった持病を複数抱えています。この「多疾患併存(multimorbidity)」を前提に診療を組み立てよう、というのが本記事の芯です。

私がこの総論で大事だと感じたのは、持病を脇に置かない視点です。がん治療中に持病への対応が手薄になると、がん以外の死亡や治療の有害事象、予後の悪化につながり得る──そう整理されると、薬剤師が処方の全体を見渡す意味がくっきりします。

3. 腎機能が低下した患者のがん薬物療法──保存期CKD・維持透析

抗菌薬でも腎機能に応じた用量調節は日常業務の中心です。その延長で、がん薬物療法における腎臓への配慮を扱った2本をセットで読みました。

保存期CKDを扱う章は、"Onco-nephrology"(腫瘍腎臓病学)を、薬剤性腎障害や投与量設計だけでなく、CKDに特有の支持療法まで含めた広い概念として捉えます。血管新生阻害薬を使うときの降圧薬の選び方、がん関連貧血への対応など、腎臓を軸にした論点が症例とともに展開されます。

維持透析を扱う章は、さらに実務直結でした。透析患者での用量設計が具体的です。

  • シスプラチンは50%の用量で開始(除去目的の透析はしない)
  • カルボプラチンはCalvert式のGFRに5〜10mL/分を代入して算出
  • アルキル化薬は50%に減量
  • フルオロウラシル系は蓄積に注意し、一部は禁忌
  • 痛み止めはモルヒネが使えず、フェンタニルやオキシコドンを選ぶ

処方鑑査でそのまま確認したい項目が並んでいて、付箋を貼りたくなる内容でした。

注目した連載──「毎月読める」価値

月刊薬事の魅力は特集だけではありません。毎号続く固定連載が、薬剤師の関心領域を広く・継続的にカバーしているのが定期購読の最大の価値だと、私は感じています。今号で私が特に読み込んだ連載を、ジャンルごとに紹介します。

まず臨床検査値を読み解く連載は、今号では炎症・感染症マーカーとβ-D-グルカンを取り上げていて、感染症に関わる私には外せない回でした。救急の連載は急性心不全で搬送された患者の初期対応を扱い、病棟とは違う時間軸の判断に触れられます。精神科の処方をめぐる連載はPTSDの薬物療法、薬物動態学の連載は周産期のラモトリギン(乳汁移行)と、いずれも自分の手薄な領域を補ってくれる内容でした。新薬を読み解く連載では今月承認された新しい不眠症治療薬が解説され、生成AIの連載はAIを「話を語り広める存在」になぞらえて活用の勘所を語っています。私はこうした連載が毎月積み上がっていくところに、雑誌ならではの強みを感じています。

なかでも臨床検査値を扱う連載の今号回(炎症・感染症マーカー×β-D-グルカン)は、感染症に関わる薬剤師として唸らされました。取り上げられるのは、次のような症例です。

  • 生体腎移植後で免疫抑制薬を併用中の患者
  • 敗血症性ショックでカルバペネム系を投与して6日が経過
  • β-D-グルカンが高いので、ミカファンギン(抗真菌薬)を提案しようとする

その提案の手前で「少し立ち止まって考えよう」と問い直すのが、この回のテーマです。β-D-グルカンを真菌の指標として反射的に解釈してよいのか——炎症の捉え方そのものから丁寧に解説されていて、抗真菌薬の適正使用を考えるうえでも学びの多い内容でした。

良かった点

1. 「併存疾患 × がん」という切り口の網羅性

循環器・腎臓・肝臓・代謝・呼吸・免疫・精神という臓器横断的な併存疾患を、一貫して「がんになったら」という問いで並べているため、自分が受け持つ患者像に合わせて拾い読みできます。総論で全体像をつかんでから各論に降りられる構成も親切です。

2. 感染管理を独立ブロックで厚く扱っている

がん患者の感染管理を、固形がん・血液がん・ワクチンの3本立てで独立させている点が、感染制御に関わる私にはありがたい編集でした。FN・AMR・irAE・breakthrough感染・ワクチン応答といった論点が、薬剤師の関与ポイントとともに整理されています。

3. 執筆陣が実務家中心

各記事の執筆者は、大学病院・がん専門病院・地域中核病院の薬剤部や感染制御部で、実際にがん患者のマネジメントを担っている先生方です。理論だけでなく、症例ベースで「どう判断するか」を示してくれる構成になっています。

4. 連載陣の継続性

新薬ななめ読み第68回、薬物動態学第18回、臨床検査値ケースファイル第11回など、長期連載が多く、月刊薬事を1年購読すれば毎月新しい特集テーマに加えて連載が積み上がります。学習の継続性という、書籍にはない雑誌ならではの強みです。

読む前に知っておきたい点

率直に、買う前に知っておくと役立つ点も挙げておきます。

1. 各論はあくまで「入り口」

併存疾患ごとの章は、限られた誌面で要点を示すものです。実際の運用では、各領域の最新ガイドラインや添付文書もあわせて確認すると、より確実です。本号自体も随所で原典の資料を参照しているので、気になったテーマをさらに深掘りする出発点として使うと効果的です。

2. がん薬物療法の全体像があると読みやすい

「持病のある患者ががんになったら」という設定上、がん治療の基本的な枠組みを知っていると、各章がより頭に入ります。がん領域にまだ慣れていない方は、本号巻頭の総論「multimorbidity時代のがん診療」で全体像をつかんでから各章に進むと、迷わず読み進められます。

3. 特集テーマは号ごとに変わる

月刊薬事の特集は、毎号テーマが変わります。今号のように全薬剤師に関わるテーマの号もあれば、特定の領域(精神科、緩和ケア、腎臓など)に絞った号もあります。自分の関心に合うかどうかは、じほう公式で各号の目次を見ると選びやすいです。毎号読むなら、価格でも手間でも年間購読が便利です(このあと比較します)。

定期購読 vs 単号購入

項目 単号購入(12冊) 年間購読
価格 2,365円×12 = 28,380円+送料 28,380円(本体25,800円+税10%、送料じほう負担)
送料 都度発生 なし
配送 都度注文・到着 自動配送(毎月1日発行)
バックナンバー 必要号を選んで購入 12号分セット

毎月読むなら年間購読が圧倒的に簡単です。送料負担分が浮き、注文の手間が消えます。私はこの利便性を理由に年間購読に切り替えました。特定のテーマだけ必要な場合は、じほう公式のバックナンバー一覧で目次を確認し、単号購入する読み方も合理的です。

月刊薬事レビューシリーズの今後

本ブログでは、2026年5月号(#1・診療報酬改定特集)に続く本号(#2)として、月刊薬事を毎月レビューしていきます。シリーズの方針は以下のとおりです。

  • タイトル形式:「月刊薬事 〇〇年〇月号レビュー──〇〇を薬剤師目線で読み解く【月刊薬事レビューシリーズ #N】」
  • 対象:その月の特集記事の注目3本+連載の魅力
  • 発行サイクル:毎月1日発行→ブログは月内(数日以内)に公開
  • note との連動:各号の特集テーマと相性の良い note 企画を提案

本記事に対して著者・編集部から反応があれば、丁寧な返信を心がけます。月刊薬事の編集部、ならびに執筆陣の先生方には、薬剤師としての学びの機会を毎月いただいていることに、この場を借りて感謝申し上げます。

あわせて読みたい記事

さらに深く学びたい方へ(note 連動)

本号の「がん患者の感染管理」が示すとおり、薬剤師の感染対策は、処方鑑査・リスク評価・予防の積み重ねです。私が公開している実務系noteは、その土台になる処方鑑査の考え方と接続できます。

免疫が落ちたがん患者ほど、薬剤の安全管理は重みを増します。アレルギー歴確認と成分ベースチェックの実務をテーマにしたnoteは、感染管理と並んで「薬剤師が患者を守る」もう一つの軸を扱っています。

総評

⭐⭐⭐⭐⭐(5段階で5) 「持病のある患者ががんになったら」という現場の頻出シーンを、併存疾患別・全身管理・感染管理の3部で網羅。がん患者の感染管理を独立ブロックで厚く扱っており、感染制御・抗菌薬適正使用に関わる薬剤師にも、病棟で多疾患併存患者を受け持つ薬剤師にも勧められる1冊。

購入リンク

📚 月刊薬事 2026年6月号(じほう、Vol.68 No.8、2026年6月1日発行、ASIN B0GVLMV6FW)

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著者について 現役の病院薬剤師。薬物療法専門薬剤師、医療薬学専門薬剤師。普段は病棟薬剤師として勤務しながら、感染制御・抗菌薬適正使用に関わる業務にも従事しています。月刊薬事を含む医療雑誌を継続的に通読し、現場で活きる学びをブログとnoteで発信しています。

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