書評

『新薬物アレルギーの教科書』レビュー──SJS/TENからN-ERD、添加物アレルギーまで、処方鑑査の判断軸を1冊で更新する

2026-06-06

調剤と情報·薬物アレルギー·SJS TEN·処方鑑査·書評

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『新薬物アレルギーの教科書』レビュー──SJS/TENからN-ERD、添加物アレルギーまで、処方鑑査の判断軸を1冊で更新する

『新・薬物アレルギーの教科書』(調剤と情報 2025年7月増刊号、じほう)の書影

「アレルギー歴ありの患者さんの処方鑑査で、判断軸を一度きちんと棚卸ししたい」——病棟薬剤師として処方鑑査に向き合う日々のなかで、私は時折こう感じます。SJS/TEN、N-ERD(NSAIDs過敏症)、経腸栄養剤の添加物アレルギーまで、薬物アレルギーは領域が広く、それぞれの最新像を1冊で押さえるのは難しい。そんなときに手に取ってよかったのが、じほう「調剤と情報」2025年7月増刊号 『新薬物アレルギーの教科書』 です。

私は普段、病棟薬剤師として処方鑑査や副作用モニタリングに関わりながら、感染制御・抗菌薬適正使用業務にも携わっています。私が公開している実務系 note でも SJS/TEN の処方鑑査(アレルギー歴確認と成分ベースチェック)を扱っており、薬物アレルギーは私自身が継続的に学び続けたい領域です。本号は、その学習軸を 「SJS/TEN・N-ERD・添加物アレルギー」 の3点で大きく更新してくれる1冊でした。

この記事でわかること

  • 『新薬物アレルギーの教科書』(調剤と情報 2025年7月増刊号)の特集構成(全6章)
  • 私が特に注目した3章(NSAIDs過敏症/SJS/TEN/薬物アレルギーに注意するポイント)
  • N-ERD(NSAIDs過敏症)の最新像──成人喘息の5%、COX-2/アセトアミノフェンの代替、オマリズマブ・デュピルマブの新展開
  • SJS/TEN の早期診断・原因薬剤特定・集学的治療の最新像
  • 経腸栄養剤・乳糖含有製剤の添加物アレルギー(タンナルビン・ミルマグ・エンシュア・ソル・メドロール等)の禁忌一覧
  • 補強として読みたい章(検査と診断/抗菌薬/周術期)
  • 病棟薬剤師の処方鑑査・感染制御業務・note-09 との接続

書誌情報

項目 内容
雑誌名 調剤と情報 2025年7月増刊号
巻号 Vol.31 No.10
発行 2025年7月(増刊号)
出版社 株式会社じほう
特集名 新薬物アレルギーの教科書
定価 3,850円(税込)※2025年7月時点
企画・編集 中村陽一 先生(豊田地域医療センター アレルギーセンター)/矢上晶子 先生(藤田医科大学ばんたね病院 総合アレルギーセンター)

特集の編集方針として、薬物アレルギーの「基礎」から「知りたい情報」まで体系的に1冊で扱えるよう、過敏症の分類・成立機序からはじまり、薬疹の各論(SJS/TEN・DIHS/DRESS・FDE ほか)、薬物別の各論(抗菌薬・NSAIDs・造影剤・生物学的製剤・周術期・局所麻酔薬)、対策(小児・服薬指導・添加物)まで網羅されています。

本号の全体構成(6章)

内容(抜粋)
第1章 薬物による有害事象──副作用・過敏症・アレルギーの違い(中村陽一先生)
第2章 薬剤過敏症──疫学・分類・成立機序(山口正雄先生)/検査と診断(福冨友馬先生)
第3章 薬疹──総論/通常の薬疹/SJS・TEN/DIHS・DRESS/FDE/外用薬による薬疹
第4章 薬物によるアナフィラキシー──原因薬剤と対応
第5章 薬物別の各論──抗菌薬NSAIDs過敏症/造影剤/生物学的製剤/周術期/局所麻酔薬
第6章 対策──小児/服薬指導/薬物アレルギーに注意するポイント

「過敏症の基礎理論 → 薬疹の各論 → 薬物別の各論 → 服薬指導・添加物まで」と、薬剤師の処方鑑査と服薬指導に直結する流れで構成されています。総論で抽象論を述べて各論は寄せ集め、という編集ではなく、第6章で添加物アレルギーまで体系化されている点が、病棟・薬局問わず「明日からの実務に使える教科書」として読める理由です。

私が特に注目した3章

毎冊、私は注目章を3本ほどピックアップしてマーカーを引きながら通読する習慣にしています。今回は自分の業務(病棟薬剤師・感染制御・抗菌薬適正使用)と、私が公開している note-09(病棟薬剤師の処方鑑査でSJSリスクを下げる) との接続を強く意識して、次の3章を厚く読みました。

1. NSAIDs過敏症(第5章、p.144、谷口正実先生/林浩昭先生)

執筆は、N-ERD(NSAIDs-exacerbated respiratory disease)の国際タスクフォースで用語提唱に関わっている 谷口正実先生。N-ERD は古くは「アスピリン喘息(AIA)」、近年は AERD と呼ばれてきた、NSAIDs により気道狭窄症状を呈する非アレルギー性の過敏症(不耐症)です。本章は、その第一人者本人による最新像のアップデートです。

押さえておきたい数字

  • N-ERD は 成人喘息の5〜10% を占める
  • 重症喘息全体の20〜35% を占める
  • 男女比 1:2 で女性に多い、思春期以降(特に30代)に発症しやすい
  • 日本人成人の喘息有病率は約6% で、国内のN-ERD患者数は 20万人以上 と推定される
  • 過敏体質は気道症状が安定した後も自然消失することはほとんどなく、生涯持続する

病棟薬剤師の処方鑑査で押さえたい原則

本章で繰り返し強調されているのは、解熱鎮痛薬の選び方です。

  • COX阻害作用が強いNSAIDsほど過敏症状を呈しやすく、選択的COX-2阻害薬は安全に使用できる
  • N-ERD の本態は「COX-1阻害薬過敏」と整理できる
  • 問診では、NSAIDs過敏歴の有無だけでなく、①アレルギー体質、②喘息の有無、③副鼻腔炎の有無 を確認する
  • ①②③のいずれかが該当する場合、解熱鎮痛薬は 通常のNSAIDsは避け、アセトアミノフェンまたはセレコキシブを選択する ほうが安全

治療の新展開

NSAIDs を回避するのは治療の入口に過ぎず、本章ではさらに踏み込んで治療オプションの最新像が示されています。

  • 喘息・副鼻腔炎症状に対する基本:吸入ステロイド・経口ステロイド(LTRA は通常喘息より効果がやや不十分とされる)
  • オマリズマブ・デュピルマブ がマスト細胞活性化抑制を介して N-ERD の症状に奏効することが判明(生物学的製剤の新展開)

「アスピリン喘息」と呼ばれていた時代から本特集に至るまでの間に、生物学的製剤を含む治療パラダイムは大きく変わっています。N-ERD は私自身も病棟で時折出会う領域で、処方鑑査では「鎮痛薬選択」だけでなく、「現病歴から N-ERD を疑うシグナル(成人発症の重症喘息+副鼻腔炎症状)」を拾える目を持っていたい——そう思わせてくれる章でした。

2. SJS/TEN(第3章 薬疹、p.70、渡邉裕子先生/山口由衣先生/横浜市立大学大学院医学研究科 環境免疫病態皮膚科学)

私が公開している note-09(病棟薬剤師の処方鑑査でSJSリスクを下げる) と完全に重なる中核章です。SJS(Stevens-Johnson 症候群)と TEN(中毒性表皮壊死症)は、主に薬物が原因となる重篤な粘膜皮膚障害で、早期診断と原因薬剤の速やかな中止が予後を左右します。

押さえておきたい数字(日本の2020年全国調査)

  • SJS:年間約 2.5例/100万人
  • TEN:年間約 1.0例/100万人
  • 致死率:TEN は約30%

本章の中心メッセージ

  • 主に薬物が原因の重篤な粘膜皮膚障害で、早期診断・治療が予後改善に直結する
  • 皮膚科医による臨床的評価と病理所見の双方が不可欠
  • 原因薬剤の速やかな中止 と、集学的治療施設での全身管理・適切な免疫抑制療法の選択が治療の要

note-09 との連動性

私の note-09 では、病棟薬剤師の処方鑑査の段階で SJS/TEN のリスクを下げるための実務(アレルギー歴確認、成分ベースチェック、原因として知られる薬剤群、リスク患者像)をまとめています。本章は、その note-09 が依拠している臨床的全体像(疫学・病態・診断・治療)を、皮膚科専門医による最新の総説として体系化してくれる位置づけです。

「SJS/TEN について学び始めたい」読者には、まず本章で全体像をつかみ、私の note-09 で「病棟薬剤師の処方鑑査でリスクを下げるための実務」を補完する、という流れがおすすめできます。逆に、本章を読み終えた医療従事者には、note-09 が「現場で何を確認するか」の具体に落とせる教材になります。

3. 薬物アレルギーに注意するポイント(第6章、p.258、伊藤浩明先生/あいち小児保健医療総合センター 免疫・アレルギーセンター)

本章は、私が今号でいちばん付箋を貼った章です。執筆は、食物アレルギー領域で多くの臨床と論考を重ねてこられた伊藤浩明先生(『食物アレルギーのすべて 改訂第2版』編者)。医薬品中の食物由来成分 に焦点を当て、病棟薬剤師の処方鑑査で日常的に確認すべき添加物アレルギーを体系化しています。

本章の基本方針

  • 医薬品には 鶏卵・牛乳・ゼラチン など食物由来成分が含まれる場合がある
  • 乳糖に残存する牛乳タンパク質は、注射剤・吸入製剤ではアレルギーを誘発しうるが、内服薬におけるリスクは極めて低い
  • インフルエンザワクチンの卵タンパク残存は微量で、鶏卵アレルギー患者への注意喚起は他のアレルギー体質を特段に上回らない

「過剰な回避による不利益(必要な治療が受けられない・代替薬の効果が劣る)と、適正なリスク管理のバランス」を、エビデンスに基づいて言語化してくれる章です。

病棟薬剤師の処方鑑査でそのまま使える「禁忌・注意」一覧

本章 p.261 の表には、医薬品と含有される食物由来成分が具体的に列挙されています。代表的なもの:

  • タンニン酸アルブミン(タンナルビン)=カゼイン(牛乳)含有:牛乳アレルギーに 禁忌
  • ミルマグ®錠=脱脂粉乳(牛乳)含有:牛乳アレルギーに注意
  • オラビ®錠 口腔用=濃縮乳タンパク質含有
  • 経腸栄養剤(イノラス®/イノソリッド®/エネーボ®/エンシュア®/ラコール®/アミノレバン®)=牛乳タンパク質含有:牛乳アレルギーに 禁忌
  • ソル・メドロール®40mg=乳糖中の牛乳タンパクでアナフィラキシー報告あり
  • エスクレ®坐剤=ゼラチン含有:ゼラチンアレルギーに注意
  • ワクチンの ゼラチン・卵タンパク:それぞれ程度差はあるが情報整理が重要

私の業務での使い方

私の業務で、本章の表をそのままチェックリスト化できる場面は多数あります。たとえば:

  • 経腸栄養剤を新規に開始するとき → アレルギー歴に「牛乳」があるかの確認
  • 制酸薬(ミルマグ®錠)を高齢者の便秘・胃腸障害で処方するとき → 牛乳アレルギー歴の確認
  • ステロイドパルス(ソル・メドロール®)の依頼が来たとき → 牛乳アレルギーの注意喚起
  • 整腸剤(一部は規格変更で牛乳タンパクが除外)→ 添付文書の改訂履歴と最新情報の照合

これは「成分ベースの処方鑑査」を実装するための、添付文書ベースの体系書として、書棚から手の届くところに置いておきたい章です。

補強として読みたい章

注目3章を読み終えたあと、補強として次の3章をセットで読むと、薬物アレルギーの全体像が立体的になります。

第2章 検査と診断(p.36、福冨友馬先生/国立病院機構相模原病院臨床研究センター)

  • 皮膚プリックテスト(SPT)・皮内テスト(IDT)・パッチテスト の使い分け
  • DLST(薬剤誘発リンパ球刺激試験) の判定と限界
  • β-ラクタム抗菌薬の非刺激試験濃度表(p.41 表2、実務的)
  • HLA-B*1502 など薬物アレルギーに関わる遺伝的マーカーの整理

なお、SJS/TEN の重症度評価としては第3章で SCORTEN(Bastuji-Garin 2000)に加え、新規スコア CRISTEN(Hama 2023)が紹介されています。私の note-09 で参照している ALDEN(原因薬剤特定のアルゴリズム)は本号では扱われていないので、組み合わせて使うとカバーが広がります。

第5章 抗菌薬(p.128、岩永賢司先生/大阪府済生会富田林病院 呼吸器・アレルギー内科)

  • 抗菌薬関連アナフィラキシーの原因薬剤として、セフトリアキソン・セフォペラゾン/スルバクタム・セファゾリン・ピペラシリン・セファクロルなど、セフェム系・ペニシリン系を中心に個別薬剤ごとの頻度が JADER 分析で示されている
  • 抗菌薬静注によるアナフィラキシーの初発症状:注射後 約2分、心停止 約7分後 という時間軸
  • β-ラクタム間の交差反応、皮膚テストの実務

感染制御・抗菌薬適正使用に携わる薬剤師にとって、抗菌薬アナフィラキシーは「絶対に取りこぼせない」テーマで、本章はその論点が網羅されています。

💡 あわせて読むと深まる:抗菌薬アレルギーを 実務書の側から踏み込んで読む なら、過去にレビューした 『抗菌薬BOOK&MAP』レビュー(佐野邦明 著/笠原敬 監修、シーニュ)がおすすめです。同書はβ-ラクタムアレルギーを独立した章で扱っており、本号 第5章「抗菌薬」(病態・検査・診断軸)と読み合わせると、「抗菌薬アレルギーをどう捉えて処方鑑査するか」の判断軸が立体的になります。本号=アレルギー学の教科書側、BOOK&MAP=抗菌薬実務書側、の二段構えで読むのが私のおすすめです。

第5章 周術期(p.204、堀内辰男先生/高澤知規先生)

  • 周術期アナフィラキシーの原因薬剤
  • スガマデクス(ブリディオン®) ・筋弛緩薬・抗菌薬・ラテックスなど
  • 麻酔科・手術室との連携で押さえたい確認事項

周術期は薬剤・物品が短時間に多数投与される場面で、薬剤師が病棟と手術室の連携を担う場合に欠かせない章です。

良かった点

1. 「過敏症の基礎 → 薬疹各論 → 薬物別各論 → 添加物まで」の一気通貫

第1〜2章で過敏症・アレルギーの分類と検査を押さえ、第3章で薬疹各論、第4〜5章で薬物別、第6章で対策と添加物。読み終えると、薬物アレルギーの全体像が「教科書」の名にふさわしい網羅性で頭に入ります。

2. 第一線の専門医・研究者による執筆

谷口正実先生(相模原病院 臨床研究センター、N-ERD 国際的提言の中心メンバー)、伊藤浩明先生(あいち小児保健医療総合センター、食物アレルギー領域の代表的著者)、福冨友馬先生(相模原病院 臨床研究センター)など、各領域で国内外をリードする先生方による執筆。総説としての信頼性が高く、参考文献を辿ると最新のエビデンスにアクセスできます。

3. 病棟薬剤師・薬局薬剤師の実務直結

第6章の添加物アレルギー、第5章の抗菌薬・NSAIDs各論、第2章の検査と診断は、いずれも処方鑑査・服薬指導の実務にそのまま使える内容で、机に置いて参照する「教科書」として使えます。

4. note-09 との接続が良い

私の SJS/TEN 処方鑑査 note は本特集第3章と完全に重なるテーマで、本特集が note の理論基盤書としても、note が本特集の実務応用としても、相互に補完できる関係になっています。

読む前に知っておきたい点

率直に、買う前に知っておくと役立つ点も挙げておきます。

1. 増刊号ゆえの分量

「調剤と情報」の通常号より厚く、誌面ページで約240頁の分量です。通読には腰を据えた読書時間が必要ですが、章単位で独立しているので、関心ある章から拾い読みできる構成です。

2. 専門用語の前提知識

ALDEN・HLA-B1502/B5701・DLST・SPT・IDT・パッチテスト・FDE・DIHS/DRESS・N-ERD・COX-2 など、薬物アレルギー領域の用語が豊富に登場します。第1〜2章で用語の定義を押さえてから各論に進むと迷いません。

3. 「教科書」としての扱い

本誌は学習・参照のための「教科書」であり、特定の疑問へのワンポイント解決を期待する方には情報量が多すぎるかもしれません。日常診療・処方鑑査の判断軸を整理したい中堅薬剤師に、特におすすめです。

あわせて読みたい記事

さらに深く学びたい方へ(note 連動)

本特集第3章の SJS/TEN は、私が公開している実務系 note と直接接続しています。本特集で全体像をつかんだあと、note で「現場で何を確認するか」の具体に落とすという読み方ができます。

本特集の第6章(添加物アレルギー)も、note の「アレルギー歴確認と成分ベースチェック」のテーマと強く重なる章で、本特集の表(タンナルビン・ミルマグ・経腸栄養剤など)を起点に、日々の処方鑑査チェックリストを見直すきっかけになります。

総評

⭐⭐⭐⭐⭐(5段階で5) 薬物アレルギーの基礎から最新像までを「教科書」の名にふさわしく1冊で押さえる増刊号。SJS/TEN・N-ERD・添加物アレルギーの3軸で、病棟薬剤師の処方鑑査・感染制御・抗菌薬適正使用に直結する判断軸を更新できる。書棚から手の届くところに置いて、参照しながら使いたい1冊。

購入リンク

📚 調剤と情報 2025年7月増刊号「新薬物アレルギーの教科書」(じほう、Vol.31 No.10、定価3,850円、ASIN B0FHBSZMSN)

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著者について 現役の薬剤師。薬物療法専門薬剤師、医療薬学専門薬剤師。普段は病棟業務に従事しながら、感染制御・抗菌薬適正使用にも関わっています。医療雑誌・専門書を継続的に通読し、現場で活きる学びをブログとnoteで発信しています。

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