書評

保険薬局の感染症対策にこの1冊──じほう『外来・薬局感染症学』を感染症に関わる薬剤師がレビュー

2026-05-30

感染症·薬局薬剤師·抗菌薬·AMR·書評

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保険薬局の感染症対策にこの1冊──じほう『外来・薬局感染症学』を感染症に関わる薬剤師がレビュー

外来・薬局感染症学(村木優一・宮﨑長一郎 監修、辻泰弘・北原隆志 編集、じほう)の書影

「薬局で感染症の勉強を始めたいのに、薬局現場に絞った本がほとんどない」「病院向けの書籍を試行錯誤しながら薬局業務に当てはめてきた」——多くの薬局薬剤師が長年抱えてきた感覚を、ようやく解消してくれる1冊が登場しました。じほうの『外来・薬局感染症学──抗菌薬の適正使用や消毒薬を用いた感染対策に強くなる頻出ケーススタディ』(2024年3月、定価3,960円)です。

私は普段、感染制御・抗菌薬適正使用に関わる業務に携わる薬剤師として、感染症領域の書籍を継続的に通読してきました。本書を手にとってから繰り返し開きっぱなしになっており、薬局薬剤師にとってまさに「待っていた1冊」だと感じる完成度でした。本記事では、本書の構造・編集意図・読みどころと、私が読んで感じた価値をまとめます。

関連する抗菌薬書として、『抗菌薬BOOK&MAP』レビュー『まとめ抗菌薬』レビュー月刊薬事 2026年5月号レビューComplex case カンファレンス レビューもあわせてご覧ください。

この記事でわかること

  • 『外来・薬局感染症学』の編集意図と本書が埋める空白
  • 全5章の構成と、各章で扱われるケーススタディの全体像
  • 第1章「感染対策・予防」11ケースの守備範囲
  • 第2章「処方箋チェック(薬剤編)」8カテゴリと、薬局業務との接続
  • 第3章「処方箋チェック(疾患編)」12疾患のラインナップ
  • 第4章「特殊な患者編」9カテゴリのカバー範囲
  • 第5章「基礎知識」11項目で再確認できる要点
  • 本書を最大限に活かす読み方
  • 感染症に関わる薬剤師から見た本書の価値

書誌情報

項目 内容
タイトル 外来・薬局感染症学──抗菌薬の適正使用や消毒薬を用いた感染対策に強くなる頻出ケーススタディ
監修 村木優一(京都薬科大学臨床薬剤疫学分野 教授)、宮﨑長一郎(有限会社宮崎薬局 代表取締役)
編集 辻 泰弘(日本大学薬学部臨床薬物動態学研究室 教授)、北原隆志(山口大学医学部附属病院 薬剤部長・教授)
出版社 株式会社じほう
発行 2024年3月29日
定価 3,960円(本体3,600円+税10%)
判型 A5判
ページ数 336ページ
ISBN 978-4-8407-5586-3
ASIN 4840755868

本書の編集意図

監修者の村木優一先生は「はじめに」(2024年3月)で本書の存在意義を明確に述べています。要約すると、抗菌薬適正使用と感染対策はAMR(薬剤耐性)対策の中核で、使用される抗菌薬の約9割は経口薬であり、対象の多くは外来患者である——という現状認識が出発点です。にもかかわらず、保険薬局や在宅医療にフォーカスを絞った感染症対策の書籍はあまり見かけない、という編集側の問題意識から本書が企画されました。

私が読んだ範囲で本書のキャラクターを規定しているのは、監修陣の組み合わせです。学術側(薬科大学教授)と実務側(薬局代表)の両輪、さらに編集側として薬物動態学・病院薬剤部の教授が入ることで、エビデンスベースの記述と現場運用の現実感が同じ章のなかで両立しやすい構造になっています。

執筆陣は大学病院・市立病院・保険薬局・在宅医療・研究機関など多施設・多領域にまたがる50名超。これだけ広い分野の薬剤師が集まる感染症テキストはあまり多くなく、本書の網羅性の高さが執筆体制から見ても担保されています。

全5章の構成

本書を私なりに俯瞰すると、構成は大きく前半の「ケーススタディ群」と後半の「基礎知識のまとめ」の二段構えになっています。前半では、薬局の日常業務に直結する感染対策・予防の場面から始まり、処方箋を受けたときのチェックポイントを「薬剤系統ごと」「疾患ごと」「患者背景ごと」と切り口を変えながら積み上げていく流れです。同じ抗菌薬でも、どの薬剤か・どの疾患か・どんな患者かで見るべき点が変わる、という薬局窓口のリアルな思考の動きに沿って章が並んでいるのが、私が読んでいて一番しっくりきた点でした。

後半は症例から離れて、抗菌薬の考え方や感染対策の土台となる知識を整理し直す構成です。前半のケースで判断に迷ったときに立ち戻れる「土台」が一冊の中に同居しているため、読み手のレベルを問わず使い回せます。全体としては、薬局で出会う感染症の主要な場面をひととおりカバーしつつ、その判断を支える基礎まで一冊で完結させようという編集意図が、章立てから素直に伝わってきました。各章の中身は、以下のセクションで私が特に注目した点を順に紹介していきます。

第1章「感染対策・予防」──薬局の安全運用を支える11ケース

第1章は薬局の日常業務に密着した11シーンで構成されています。私が章タイトルから読み取った範囲では、以下の3つの軸でまとめられています。

  • 突発事象への対応:日常の最低限の対応、患者さんが嘔吐したとき、インフルエンザシーズン
  • 業務シーンごとの対策:薬局内環境整備(清掃・消毒)、無菌調製時、調剤時
  • 業務形態ごとの対策:在宅医療、高齢者介護施設、学校薬剤師、災害時、新興感染症

「患者さんが嘔吐したとき」のような薬局現場の頻出シーンを単独の章として扱う本は、私の知る範囲では類書にほとんど見当たりません。第1章を読み終えるころには、薬局の初動対応の基準が一通り手に入ります。薬局を運営する薬剤師にとっては、第1章だけでも購入の元が取れると言っていい内容です。

第2章「薬剤編」──薬局の窓口で出会う抗菌薬8カテゴリ

第2章は処方箋に出てくる抗菌薬を薬剤系統別に8カテゴリで扱います。

  1. β-ラクタム系薬
  2. マクロライド系薬
  3. キノロン系薬
  4. 抗結核薬
  5. 抗HIV薬
  6. テトラサイクリン系薬・リンコマイシン系薬
  7. 抗真菌薬
  8. 抗ウイルス薬

薬局の窓口で頻出する経口薬を中心にカテゴリ分けされており、各カテゴリで「処方箋を受けたときに何をチェックするか」の視点で記載されています。私が他書で同じテーマを学ぼうとすると、病院向けの体系書を縦読みしてから「薬局向けの注意点」を抽出する作業が必要でした。本書はその前処理を編集側が全部済ませてくれているため、読者は薬局窓口の業務動線にそのまま乗せて読めます。この時短効果だけでも、現役薬剤師にとって価値は十分です。

第3章「疾患編」──薬局で頻出する12疾患

第3章は、薬局のカウンターで実際に処方箋を目にする頻度が高い疾患を軸にケーススタディを並べた章です。私が読んでいて感心したのは、その幅の取り方でした。風邪や喉・鼻まわりの感染症といった、薬局で日常的に相談を受けるプライマリ領域をきちんと独立して扱いつつ、肺炎のように患者背景によって判断が分かれる疾患は複数のパターンに分けて掘り下げています。

一方で、尿路や皮膚、口腔まわりといった守備範囲の広い領域に加え、薬局での遭遇が近年増えていると感じる性感染症や、専門性の高い病態まで章立てに含まれている点も見逃せません。プライマリ領域だけ、あるいは専門領域だけに偏らないバランスの取り方が、本書の信頼感を支えていると感じました。私が特に注目したのは、「薬局で出会う頻度」と「判断を誤ると影響が大きい病態」の両方に目配りした疾患選びで、この章を一通り読むだけでも、窓口で迷ったときの判断の軸がかなり整います。

第4章「特殊な患者編」──薬局判断が問われる9カテゴリ

第4章は患者背景に応じた処方箋チェックの9カテゴリです。

  • ライフステージ別:妊婦、授乳婦、小児、高齢者
  • 臓器障害別:腎機能低下患者、肝機能低下患者
  • 服薬背景別:抗菌薬と相互作用をもつ薬剤を服用中の患者、抗菌薬アレルギー患者
  • トリアージ:受診勧奨すべき患者

最後の「受診勧奨すべき患者」が独立章になっているのが本書の特徴的なところです。薬局でセルフメディケーション相談を受けたときに「いつ受診を勧めるか」の判断軸を整理した章は、類書ではほとんど見たことがありません。薬局運営のリスクマネジメント、そして患者を守る最後の砦として、この章は手元に置いておく価値があります。

第5章「基礎知識」──11項目で全体像を再確認

第5章は症例から離れて、感染症の基礎を11項目で整理し直す構成です。

  • 抗菌薬のロジック・作用機序・スペクトラム(浜田幸宏)
  • 抗菌薬の薬物動態と薬力学(辻 泰弘)
  • 抗菌薬の効果・副作用の評価指標 バイタルサイン(馬場安里、北原隆志)
  • グラム染色のやり方と見方(山田和範)
  • 消毒薬の種類・スペクトラム(中川博雄)
  • 感染予防のための衛生用品(澤田真嗣)
  • ワクチンの基礎知識(日馬由貴)
  • 薬剤耐性(AMR)対策(前田真之)
  • 抗菌薬の使用状況の測り方(村木優一)
  • 薬局でのAMR対策(橋場 元)
  • 薬局で使える抗菌薬投与設計支援ソフトウエア(尾田一貴)

第5章で特に独自性が高いと感じたのは、最後の3項目「抗菌薬の使用状況の測り方」「薬局でのAMR対策」「薬局で使える投与設計支援ソフト」です。AMR対策を「個別処方箋の判断」ではなく「薬局全体のマネジメント」として扱う章は、私の知る範囲では類書にあまり見当たりません。薬局運営をリードする立場の薬剤師にとって、第5章後半は本書を購入する強い理由になるはずです。「個別判断のスキル」ではなく「組織としてのAMR対策」を学べる章を持つ感染症テキストは、現時点で本書以外にあまり選択肢がありません。

感染症に関わる薬剤師から見た本書の価値

感染制御や抗菌薬適正使用に関わる薬剤師にとって、本書は「薬局現場の感染症対応の標準解」を一冊で把握できる教材として機能します。

AMR対策は地域全体で進める課題で、薬局・在宅・介護施設・学校・災害時など多様な現場で起こります。本書を一度通読しておくと、それぞれの現場で薬剤師が何を見て、何を判断材料にしているかが立体的に分かり、地域連携や情報提供の場面で説得力のある対話ができるようになります。

第5章後半の「薬局でのAMR対策」「抗菌薬の使用状況の測り方」「薬局で使える抗菌薬投与設計支援ソフトウエア」は、感染対策をリードする立場の薬剤師にとって、薬局の取り組みを地域単位で俯瞰するための見取り図になります。私が読んだ範囲では、AMR対策を「個別の処方判断」ではなく「薬局運営のマネジメント」として扱う章はほかにあまり選択肢がなく、薬局・地域薬剤師業務を理解したい立場には貴重なまとめです。

本書を最大限に活かす読み方

本書はじっくり通読することも、ケース別のリファレンスとして開き直すことも、両方を想定して設計された読み物です。次のような読み方をすると、書籍に込められた価値がより深く引き出せます。

1. 章ではなくケース単位で読み始める

400ページ近いボリュームを通読しようとすると挫折しがちです。気になるケース(たとえば「学校薬剤師」「災害時」「受診勧奨すべき患者」など)から先に読んで、必要なときに該当ケースを引き直すリファレンス的な使い方が現実的です。

2. 第5章を「基礎の再確認」に使う

第5章の11項目は、各論ケースを読んでいて土台が揺らいだと感じたときに戻る場所として機能します。「処方箋の判断に迷う」場面の多くは、基礎知識のどこかが曖昧になっていることが原因です。第5章は基礎を立て直す立て直しに最適です。

3. 第1章を薬局運営者と共有する

第1章「感染対策・予防」は、薬局を運営する立場の薬剤師・管理薬剤師にとって、スタッフ教育の素材としてそのまま使えます。スタッフと1ケースずつ読み合わせる勉強会の教材としても活用できます。

4. 第4章を「セルフメディケーション相談」の判断基準に

第4章「特殊な患者編」、特に「受診勧奨すべき患者」は、薬局カウンターでのセルフメディケーション相談時に立ち戻る基準として手元に置いておきたい章です。

類書との使い分け

本書の理解を深めるには、すでに手元にある類書との位置づけを整理しておくと、より効果的に活用できます。私が業務で参照している書籍との関係を私見ベースで整理します。

書籍 強み 本書との関係
まとめ抗菌薬(山口浩樹、羊土社) 抗菌薬の系統別感受性表が一目で比較 第2章「薬剤編」を別角度から補完。両者は補完関係
抗菌薬BOOK&MAP(佐野邦明、シーニュ) 紙のMAPでスペクトラムを俯瞰、βラクタムアレルギー対応が深い 第2章・第4章のアレルギー章を補完
サンフォード感染症治療ガイド(ライフサイエンス出版) 用量・期間の即時参照 第3章の疾患別ケースを補完
各領域の学会ガイドライン(JAID/JSC、JSPHCSなど) 領域別の標準治療 本書のケーススタディで触れた疾患の深掘り用

本書はこれらの「体系書」「リファレンス」と並ぶ位置づけというよりは、「薬局現場の業務動線に沿ったケーススタディ」というユニークな立ち位置を占めています。手元のリファレンスと組み合わせると、知識が薬局現場に着地する形で立体化します。

良かった点

1. 薬局現場フォーカスの徹底

タイトル通り「外来・薬局」に絞り込んだ章立てが徹底されています。病院領域の細かい議論を持ち込まず、薬局窓口・在宅・介護施設・学校薬剤師など、薬局薬剤師が日常で出会うシーンに章が割かれているのは、本書ならではの設計です。このフォーカスの徹底が、本書の最大の価値です。

2. ケーススタディ40件以上の圧倒的ボリューム

第1〜4章で40ケース以上のケーススタディが収録されています。「同じ疾患でも患者背景が違うとどう判断するか」を学ぶには、ケース数の多さがそのまま価値になります。1ケースあたりに換算すると、本書は1ケース100円以下で買える教材であり、コストパフォーマンスの観点でも稀有な1冊です。

3. 第5章で基礎を再確認できる二段構え

ケーススタディ中心の前半(第1〜4章)と、基礎知識整理の第5章という二段構えは、初学者から中堅まで層を選ばない構成です。読み始めた段階で基礎が抜けていても、第5章で立て直しながら前半を再読すれば、知識の定着が進みます。1冊で2冊分の役割を果たしてくれる構成です。

4. 監修・編集・執筆陣の多様性

監修2名・編集2名・執筆50名超という体制は、感染症テキストとしては大規模な部類です。多施設・多領域の薬剤師が一冊に集結することで、視点の単一化が避けられ、地域差・施設差にも開かれた記述になっています。これだけの執筆陣が結集した薬局フォーカスの感染症テキストは、近年類を見ません。

5. 3,960円という価格

336ページ・全5章・40ケース以上・基礎知識11項目・執筆50名超という情報密度に対して、定価3,960円は率直に得難い水準です。専門書としてのバリューを考えると、薬局薬剤師にとっては「迷わず買い」と言っていい価格設定です。

こんな薬剤師にお勧めしたい

私が読んだうえで、本書を強くお勧めしたいのは以下のような薬剤師です。

  • 保険薬局で日々処方箋を受けている薬剤師
  • 在宅医療・介護施設・学校薬剤師など、薬局外での業務にも関わる薬剤師
  • 薬局のAMR対策や感染対策をリードしたい管理薬剤師・運営者
  • セルフメディケーション相談のスキルを底上げしたい薬剤師
  • 感染制御・感染対策に関わる立場で、地域・薬局業務の動線を体系的に理解したい薬剤師
  • 多職種連携・地域連携の場面で、薬局薬剤師との対話の質を上げたい薬剤師

国家試験対策や薬剤師1年目の基礎固めの段階の方は、本書の前にまず基礎テキストや新人向け強化書で土台を整えてから本書に進むと、より深い学びが得られます。

総評

⭐⭐⭐⭐⭐(5段階で5) 薬局現場フォーカスの感染症テキストとして、構成・執筆体制・カバー範囲のいずれも文句なしの完成度。第1章「感染対策・予防」、第4章「受診勧奨すべき患者」、第5章「薬局でのAMR対策」など、他書ではほとんど扱われない章立てが特に光ります。薬局薬剤師に勧める「最初の1冊」として、現時点で第一候補にしたい本です。

こんな1冊を待っていた方へ

「薬局に絞った感染症の本がなかった」「他領域向けの本を読み替えるのに疲れた」と感じてきた薬剤師なら、本書を開いた瞬間に「これを待っていた」と感じるはずです。私自身、書評を書きながら、感染症に関わる薬剤師として学びの多い読書時間になりました。

336ページ・40ケース・基礎知識11項目・執筆陣50名超という密度に対して、定価3,960円は率直に得難い水準です。1ケースあたり100円を切るコストパフォーマンスで、薬局現場の判断軸が手に入る——この機会は、長く感染症の勉強に悩んできた薬剤師にとっての終着点になりえます。

机に1冊置いておくだけで、いざというときに開ける安心感が手に入ります。AMR対策と感染症診療がいよいよ薬局にも本格的に求められる時代の、必携の1冊です。ぜひ手にとって、薬局現場の業務動線にそのまま乗るケーススタディの威力を体験してみてください。

購入リンク

📚 外来・薬局感染症学──抗菌薬の適正使用や消毒薬を用いた感染対策に強くなる頻出ケーススタディ(じほう、2024年3月、定価3,960円)

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著者について 現役の薬剤師。薬物療法専門薬剤師、医療薬学専門薬剤師。感染制御・抗菌薬適正使用に関わる業務に従事しながら、月刊薬事を含む医療雑誌を継続的に通読し、現場で活きる学びをブログとnoteで発信しています。

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